衆院選で実施した調査について
2021.12.9
衆院選で実施した調査について
10月19日公示・31日投票の日程で行われた衆院選で社会調査研究センターは以下の調査を実施しました。
○ノン・スポークン序盤情勢調査(19、20日)
・サンプル数=固定97,499件・携帯76,525件
・毎日新聞社と共同通信社から受託
・21日付毎日新聞朝刊1面の見出し
「自民議席減の公算大/63選挙区で接戦/与党、過半数は確保」
○dサーベイ公示前情勢調査(16、17日)=153,974サンプル
○dサーベイ中盤情勢調査(23〜26日)=162,527サンプル
○dサーベイ投票行動調査(30、31日)=175,152サンプル
○dサーベイ富山情勢調査(19、20日)
・2,519サンプル
・富山新聞社から受託
・21日付富山新聞朝刊1面の見出し
「1区 田畑氏を吉田氏追う/2区 上田氏が優勢な戦い/3区 橘氏盤石、引き離す/新方式の調査採用/スマホで若者も把握 精度高く」
○ノン・スポークン序盤情勢調査(19、20日)
・サンプル数=固定97,499件・携帯76,525件
・毎日新聞社と共同通信社から受託
・21日付毎日新聞朝刊1面の見出し
「自民議席減の公算大/63選挙区で接戦/与党、過半数は確保」
○dサーベイ公示前情勢調査(16、17日)=153,974サンプル
○dサーベイ中盤情勢調査(23〜26日)=162,527サンプル
○dサーベイ投票行動調査(30、31日)=175,152サンプル
○dサーベイ富山情勢調査(19、20日)
・2,519サンプル
・富山新聞社から受託
・21日付富山新聞朝刊1面の見出し
「1区 田畑氏を吉田氏追う/2区 上田氏が優勢な戦い/3区 橘氏盤石、引き離す/新方式の調査採用/スマホで若者も把握 精度高く」
選挙・世論調査の「戦国時代」到来
「選挙予測・情勢調査の戦国時代」が到来した。そう指摘するのは世論調査研究の第一人者、埼玉大学の松本正生名誉教授(社会調査研究センター社長)だ。先の衆院選で読売新聞など一部メディアの情勢調査に基づく選挙予測が外れたのは、従来とは異なる調査方法を採用したことに起因する。メディア各社が独自の調査方法で臨んだ衆院選報道は明暗を分ける形になったが、松本名誉教授はこれを「戦国時代の幕開け」と評したのである。
読売新聞「自民 単独過半数は微妙」
日経新聞「自民、単独過半数の攻防」
両紙の朝刊1面にこの大見出しが踊ったのは10月29日。その2日後の投開票結果は、自民党が衆院(定数465)の単独過半数ライン(233)を大きく上回る261議席(追加公認の2議席を含む)を獲得し、事実上の勝利を飾った。両紙の選挙予測は「外れた」のである。
メディア各社は国政選挙のたびに大規模な情勢調査を実施し、取材を加味して各党の獲得議席を予測する。これが社会的に認められてきたのは、ある程度「当たる」ことが前提としてあったからだ。今回のように「外れる」のは極めて珍しい。その背景には、報道機関側が従来の調査方法を継続するのが難しくなった時代状況がある。
報道各社による毎月定例の電話世論調査が一般化したのは、コンピューターでランダムに数字を組み合わせた番号に電話をかけるRDD(ランダムデジットダイヤリング)法が普及した2000年代に入ってからのこと。選挙の情勢調査もRDD法で行われてきたのだが、①特殊詐欺の横行で見知らぬ人からの電話に応対する人が少なくなった②固定電話の保有率低下で、固定以上に回答率が低い携帯電話も調査対象に加えなければならなくなった③調査に必要な架電件数が増え、オペレーターの確保が困難になった——という事態に報道各社が直面した。
その結果、衆院選では大きく【読売新聞・日経新聞】【毎日新聞・共同通信】に対応が分かれた。
【読売・日経】は調査を「日経リサーチ」に委託。調査対象の電話番号をRDD法で抽出する点は従来と変わらないが、対象に携帯電話を加え、回答者への質問はオペレーターが行う方式と自動音声で行うオートコール方式の両用とした。公示日の10月19日と翌20日に序盤情勢調査、同26〜28日に終盤情勢調査を実施した。
【毎日・共同】は社会調査研究センターに調査を委託。こちらも対象者をRDD法(毎日新聞の呼称はRDS法)で抽出する点は従来通り。固定と携帯の両方に架電する点も読売・日経と同じだが、架電は全てオートコールで行った。固定電話の場合、回答者は自動音声の質問にプッシュ番号で回答する。携帯電話の場合、自動音声の調査依頼を承諾するとSMS(ショートメッセージサービス)でアンケート画面へのリンク情報が送られてきて、それをタップして回答する。社会調査研究センターでは、この固定オートコールと携帯SMSを組み合わせた調査方式を、人と人との会話を介さないという意味で「ノン・スポークン調査™️」と名付け、毎日新聞が昨年から定例世論調査で採用している。
毎日・共同は10月19、20日に序盤情勢調査を実施。毎日は21日朝刊で、自民党は公示前の276議席から減らす公算が大きいものの、公明党と合わせた与党全体では堅調とみて「与党、過半数は確保」と報じた。今回の衆院選では289ある小選挙区のうち213選挙区で野党5党が候補者を一本化し、60以上の選挙区で与党候補と接戦を展開していた。そのため毎日は自民の獲得議席を「224〜284」と幅を持たせて予測。自民党が単独過半数を割り込むことがあるとすれば、接戦区のほぼ全てで競り負けた場合だ。その可能性は低いというのが毎日の情勢分析だった。
これに対し、同じ日程で序盤情勢調査を実施した読売・日経は21日朝刊で「自民減 単独過半数の攻防」(読売)、「与党、過半数を視野」(日経)と報じ、この段階で毎日・共同との予測の食い違いが鮮明になった。同じRDD法で固定と携帯の両方に架電する調査方法を採用しながら、調査結果にそれほどの違いが生じるものだろうか。浮かび上がってきたのが固定オートコール調査の特性である。
従来のオペレーター方式で固定電話調査を行う場合、電話口に出た人を調査対象にするのではなく、その世帯に18歳以上の有権者が何人いるかを尋ね、その中から「年齢が上から3番目の人」といった形で改めて対象者を無作為に選ぶ手順を踏む。そうしなければ回答者が在宅率の高い高齢者や主婦に偏るからだ。架電時にその対象者が不在であれば、帰宅時間を聞いて電話をかけ直す。こうした複雑な調査手順はオペレーター(人間)だから可能なのであって、オートコール(機械)では不可能。固定オートコール調査は電話に出た人を対象とするため必然的にオペレーター方式より高齢者が多くなる。
加えて、固定オートコールでかかってきた電話を無視する事なく調査に回答する人の特徴としては、政治や選挙への関心が高いことが推測される。その中にはもちろん保守層も少なくないだろうが、政治の現状に問題意識を持つリベラル層の比率が比較的高くなる。その結果、固定オートコール調査で支持政党を尋ねると、立憲民主党の支持率が高めに出る傾向がある。
社会調査研究センターは、毎日新聞と実施してきた過去の世論調査ごとに固定・携帯に分けた集計データをホームページで公開している。高齢の回答者が多い固定は立憲、50代以下が比較的多い携帯は自民の支持率が高くなる。こうしたデータの蓄積をもとに毎日・共同の序盤情勢調査は設計し、全選挙区のサンプル数を合計して固定97,499件・携帯76,525件という組み合わせで実施した。
読売・日経の序盤情勢調査と終盤情勢調査も同規模のサンプル数18万件以上で実施されたが、固定と携帯、オペレーターとオートコールの内訳は公表されていない。読売・日経はそれぞれ集計段階で調査データに独自の補正をかけたはずだ。それでも「自民の単独過半数割れ」があり得ると予測したということは、立憲民主党に強く出た固定オートコール調査のデータに引きずられたのではないだろうか。
産経新聞もオートコール方式で情勢調査を実施し、10月26日朝刊で「自民、単独過半数へ攻防」と読売・日経に足並みを揃えた。一方、朝日新聞は独自のインターネット調査に基づき同26日朝刊で「自民過半数確保の勢い」と報じた。保守系の読売・日経・産経が自民に厳しい予測を報じたことには「危機感を煽って陣営を引き締める狙いがあるのでは」、リベラル系とされる朝日・毎日・共同に対しては「自民を油断させようとしているのでは」などの憶測が喧伝されたが、新たな調査方式を使いこなせたかどうかの違いだったように思われる。
社会調査研究センターはノン・スポークン方式の序盤情勢調査とは別に、NTTドコモと共同開発した「dサーベイ™️」による公示前情勢調査(10月16、17日実施、153,974サンプル)▽中盤情勢調査(23〜26日実施、162,527サンプル)▽投票行動調査(30、31日実施、175,152サンプル)を行った。1週間ごとに同じ方法で調査を続けたことによって①まだ野党候補が有権者にほとんど浸透していない公示前の段階では自民党が圧倒的に優勢②中盤で立憲民主党が都市部を中心に追い上げを見せたものの③最後は頭打ちになって差しきれなかった——という情勢の変化を捕捉することができた。衆院解散から公示、投票まで過去最短の日程を仕掛けた岸田文雄首相の戦術が当たったとみることもできよう。
来年の参院選、その先の次期衆院選をにらんだメディア間の競争は「戦国時代」に入ったようだ。社会調査研究センターとしては、ノン・スポークン調査とdサーベイに磨きをかけることで、選挙・世論調査の発展と信頼確保に取り組んでいきたい。
読売新聞「自民 単独過半数は微妙」
日経新聞「自民、単独過半数の攻防」
両紙の朝刊1面にこの大見出しが踊ったのは10月29日。その2日後の投開票結果は、自民党が衆院(定数465)の単独過半数ライン(233)を大きく上回る261議席(追加公認の2議席を含む)を獲得し、事実上の勝利を飾った。両紙の選挙予測は「外れた」のである。
メディア各社は国政選挙のたびに大規模な情勢調査を実施し、取材を加味して各党の獲得議席を予測する。これが社会的に認められてきたのは、ある程度「当たる」ことが前提としてあったからだ。今回のように「外れる」のは極めて珍しい。その背景には、報道機関側が従来の調査方法を継続するのが難しくなった時代状況がある。
報道各社による毎月定例の電話世論調査が一般化したのは、コンピューターでランダムに数字を組み合わせた番号に電話をかけるRDD(ランダムデジットダイヤリング)法が普及した2000年代に入ってからのこと。選挙の情勢調査もRDD法で行われてきたのだが、①特殊詐欺の横行で見知らぬ人からの電話に応対する人が少なくなった②固定電話の保有率低下で、固定以上に回答率が低い携帯電話も調査対象に加えなければならなくなった③調査に必要な架電件数が増え、オペレーターの確保が困難になった——という事態に報道各社が直面した。
その結果、衆院選では大きく【読売新聞・日経新聞】【毎日新聞・共同通信】に対応が分かれた。
【読売・日経】は調査を「日経リサーチ」に委託。調査対象の電話番号をRDD法で抽出する点は従来と変わらないが、対象に携帯電話を加え、回答者への質問はオペレーターが行う方式と自動音声で行うオートコール方式の両用とした。公示日の10月19日と翌20日に序盤情勢調査、同26〜28日に終盤情勢調査を実施した。
【毎日・共同】は社会調査研究センターに調査を委託。こちらも対象者をRDD法(毎日新聞の呼称はRDS法)で抽出する点は従来通り。固定と携帯の両方に架電する点も読売・日経と同じだが、架電は全てオートコールで行った。固定電話の場合、回答者は自動音声の質問にプッシュ番号で回答する。携帯電話の場合、自動音声の調査依頼を承諾するとSMS(ショートメッセージサービス)でアンケート画面へのリンク情報が送られてきて、それをタップして回答する。社会調査研究センターでは、この固定オートコールと携帯SMSを組み合わせた調査方式を、人と人との会話を介さないという意味で「ノン・スポークン調査™️」と名付け、毎日新聞が昨年から定例世論調査で採用している。
毎日・共同は10月19、20日に序盤情勢調査を実施。毎日は21日朝刊で、自民党は公示前の276議席から減らす公算が大きいものの、公明党と合わせた与党全体では堅調とみて「与党、過半数は確保」と報じた。今回の衆院選では289ある小選挙区のうち213選挙区で野党5党が候補者を一本化し、60以上の選挙区で与党候補と接戦を展開していた。そのため毎日は自民の獲得議席を「224〜284」と幅を持たせて予測。自民党が単独過半数を割り込むことがあるとすれば、接戦区のほぼ全てで競り負けた場合だ。その可能性は低いというのが毎日の情勢分析だった。
これに対し、同じ日程で序盤情勢調査を実施した読売・日経は21日朝刊で「自民減 単独過半数の攻防」(読売)、「与党、過半数を視野」(日経)と報じ、この段階で毎日・共同との予測の食い違いが鮮明になった。同じRDD法で固定と携帯の両方に架電する調査方法を採用しながら、調査結果にそれほどの違いが生じるものだろうか。浮かび上がってきたのが固定オートコール調査の特性である。
従来のオペレーター方式で固定電話調査を行う場合、電話口に出た人を調査対象にするのではなく、その世帯に18歳以上の有権者が何人いるかを尋ね、その中から「年齢が上から3番目の人」といった形で改めて対象者を無作為に選ぶ手順を踏む。そうしなければ回答者が在宅率の高い高齢者や主婦に偏るからだ。架電時にその対象者が不在であれば、帰宅時間を聞いて電話をかけ直す。こうした複雑な調査手順はオペレーター(人間)だから可能なのであって、オートコール(機械)では不可能。固定オートコール調査は電話に出た人を対象とするため必然的にオペレーター方式より高齢者が多くなる。
加えて、固定オートコールでかかってきた電話を無視する事なく調査に回答する人の特徴としては、政治や選挙への関心が高いことが推測される。その中にはもちろん保守層も少なくないだろうが、政治の現状に問題意識を持つリベラル層の比率が比較的高くなる。その結果、固定オートコール調査で支持政党を尋ねると、立憲民主党の支持率が高めに出る傾向がある。
社会調査研究センターは、毎日新聞と実施してきた過去の世論調査ごとに固定・携帯に分けた集計データをホームページで公開している。高齢の回答者が多い固定は立憲、50代以下が比較的多い携帯は自民の支持率が高くなる。こうしたデータの蓄積をもとに毎日・共同の序盤情勢調査は設計し、全選挙区のサンプル数を合計して固定97,499件・携帯76,525件という組み合わせで実施した。
読売・日経の序盤情勢調査と終盤情勢調査も同規模のサンプル数18万件以上で実施されたが、固定と携帯、オペレーターとオートコールの内訳は公表されていない。読売・日経はそれぞれ集計段階で調査データに独自の補正をかけたはずだ。それでも「自民の単独過半数割れ」があり得ると予測したということは、立憲民主党に強く出た固定オートコール調査のデータに引きずられたのではないだろうか。
産経新聞もオートコール方式で情勢調査を実施し、10月26日朝刊で「自民、単独過半数へ攻防」と読売・日経に足並みを揃えた。一方、朝日新聞は独自のインターネット調査に基づき同26日朝刊で「自民過半数確保の勢い」と報じた。保守系の読売・日経・産経が自民に厳しい予測を報じたことには「危機感を煽って陣営を引き締める狙いがあるのでは」、リベラル系とされる朝日・毎日・共同に対しては「自民を油断させようとしているのでは」などの憶測が喧伝されたが、新たな調査方式を使いこなせたかどうかの違いだったように思われる。
社会調査研究センターはノン・スポークン方式の序盤情勢調査とは別に、NTTドコモと共同開発した「dサーベイ™️」による公示前情勢調査(10月16、17日実施、153,974サンプル)▽中盤情勢調査(23〜26日実施、162,527サンプル)▽投票行動調査(30、31日実施、175,152サンプル)を行った。1週間ごとに同じ方法で調査を続けたことによって①まだ野党候補が有権者にほとんど浸透していない公示前の段階では自民党が圧倒的に優勢②中盤で立憲民主党が都市部を中心に追い上げを見せたものの③最後は頭打ちになって差しきれなかった——という情勢の変化を捕捉することができた。衆院解散から公示、投票まで過去最短の日程を仕掛けた岸田文雄首相の戦術が当たったとみることもできよう。
来年の参院選、その先の次期衆院選をにらんだメディア間の競争は「戦国時代」に入ったようだ。社会調査研究センターとしては、ノン・スポークン調査とdサーベイに磨きをかけることで、選挙・世論調査の発展と信頼確保に取り組んでいきたい。
文責 平田崇浩(社会調査研究センター)
2021年12月09日 09:00