2020年9月17日実施 全国世論調査の分析と結果
2020.09.23
9月17日実施 全国世論調査の分析と結果
菅新内閣、高支持率の背景
- 政策の立て直しへの期待か
松本 正生(社会調査研究センター代表取締役社長)
社会調査研究センターでは、安倍晋三首相(当時)の辞任表明後の20年9月8日(火)と、菅義偉新内閣の発足直後の9月17日(木)に、RDD方式による全国世論調査を実施しました。調査の方法は、携帯電話(スマートフォン)を対象とするショートメールと固定電話を対象とするオートコールとを複合させた、新しいミックス・モード手法 = 「ノン・スポークン (Non-spoken) 方式」を採用しています (調査方法については、「社会調査研究センターの『新ミックス・モード調査』」https://ssrc.jp を参照してください) 。
ノン・スポークン調査による全国世論調査は4月から開始し、今回は7 および 8 回目に相当します。
■高支持率の構造
社会調査研究センターの調査における菅新内閣の支持率は、64%と高い数値を検出しました。同時期に実施された報道各社の調査結果は、いずれも60~70パーセント台の高支持率となりました。
〔図〕中の実線は、菅内閣の年齢別支持率を示しています。〔図〕には安倍内閣の最終分に相当する2回の結果(8.22調査の支持率=34%、9.8調査=50%)もプロットしています。安倍内閣の支持構造が、トータルの支持率の絶対値にかかわらず、右肩下がりの「若高―老低」型を特徴としていたのに比べ、菅内閣は、70歳以上はやや低いものの、18~29歳から60代までのすべての年代で6割を上回り、幅広い支持を確保していることがわかります。
〔図〕年齢別内閣支持率(安倍⇔菅)
30パーセント台の低位にあった8月の安倍内閣と比較すると、上昇の度合いは60代の40ポイントを筆頭に、50,60代の中年層において最も顕著です。安倍首相の辞任表明後の9月8日調査の、「次の首相に期待するのは、安倍政権からの継続性か、それとも政策や政治姿勢の変化か」質問では、「変化を期待する」が55%で「継続性を期待する」の33%を上回りました。わけても、「変化を期待する」比率は、60代の68%を最高に中高年層で高い値を示していました。
‘ 新しい政権で、もう一度気を引き締めて『ウィズ・コロナ』の仕切り直しを ’ 。安倍内閣から菅新内閣へ、支持率の大幅増には、こうした社会の雰囲気が投影しているように思われます。
■新内閣で経済政策の立て直しを
では、有権者が「変化を期待する」のは何なのでしょうか。新政権発足直後の9月17日調査で「安倍政権からの変化を望む政策」を1つ選んでもらった結果は、第一位が「経済政策」で24%、以下「新型コロナウィルス対策」の21%、「首相の政治姿勢」の19%、「社会保障政策」の17%、「特にない」の10%の順でした。〔表1〕は、これらのうち、上位の3つについて、年齢別の比率を示したものです。
「コロナ対策」や「首相の政治姿勢」が、中高年層で比較的高い割合であるのに対して、「経済政策」は、18歳~29歳から40代までの若い年代で高い比率を占めています。安倍政権のコア支持層であった働き盛りの若年世代の人たちが、安倍政権の経済政策、すなわち、アベノミクスからの転換を求めているのです。先の〔図〕で確認したように、各年代からの幅広い支持を得た菅新政権ですが、若年層(18歳~29歳から40代まで)の高い支持については、安倍政権の支持構造をそのまま受け継いでいると考えられます。それゆえに、いささか負荷のある資産を背負っての船出であると言えるかもしれません。
〔表1〕安倍政権からの変化を望む政策(年齢別)
■「内閣支持率」のデータ・プロセス: 質問の方式
さて、菅新内閣の発足にあたり報道各社が実施した世論調査では、いずれも高い支持率が検出されました。ただ、各社の値を個別に比較すると、社会調査研究センターと共同実施した毎日新聞社調査(以下、毎日新聞社)の64%や朝日新聞社調査の65%に対して、日本経済新聞社調査は74%と10ポイント程度の差が存在します。その理由は、一般的に『重ね聞き』効果によるものと解釈されています。『重ね聞き』とは追及質問(サブ・クエッション)、要するに『二度聞き』のことです。「内閣を支持しますか、支持しませんか」と聞かれた時、調査の対象者はすぐに「支持する」・「支持しない」を応答するとは限りません。ちょっと考え込んだり、あいまいな反応をする人も必ず存在します。『重ね聞き』とは、そうした人に再度、「どちらかといえば、支持しますか、支持しませんか」とか「お気持ちに近いのはどちらですか」といった念押しの質問をし、回答を『促(うなが)す』手法を意味します。『重ね聞き』を採用するのは、日本経済新聞社と読売新聞社です。他方、朝日新聞社と毎日新聞社は『重ね聞き』はせずに、単一の質問方式を採用しています。
比較の基準を統一するために、日本経済新聞社の支持率を、『重ね聞き』をする前の最初の数値、すなわち朝日新聞社や毎日新聞社と同じレベルの数値に置き換えると、66%となり単一質問方式の朝日や毎日と同様の比率になります。
ここで〔表2〕を参照してください。毎日新聞社、朝日新聞社、日本経済新聞社の調査結果を、「支持率」・「不支持率」・「(支持+不支持の)合計比率」にブレークダウンしてみました。朝日新聞社と日本経済新聞社の数値は、3つの変数のどれもほぼ一致していますが、毎日新聞社の数値は、「支持率」を除く、「不支持率」と「合計比率」が、他の2社と異なることが確認できます。ただ、「合計比率」については、日本経済新聞社の『重ね聞き』後の数値と一致します。単一質問方式にもかかわらず、「支持」と「不支持」の「合計比率」が『二度聞き』後のそれと同じであること、つまり、明確な意思表明の比率が高いということは、毎日新聞社の調査にはメリハリのある回答がより多く寄せられていると言えるでしょう。
〔表2〕菅内閣支持調査結果の比較('20.9.17)
■「内閣支持率」のデータ・プロセス: 意見聴取のメソドロジー
回答結果間の相違を検討する際には、質問の方式に止まらず、実査の環境条件、言い換えれば、意見聴取の手法にも留意しなければなりません。注目すべきポイントは、「不支持率」にあります。〔表2〕をみると、毎日新聞社は27%、朝日新聞社と日本経済新聞社はそれぞれ13%,14%と10ポイント以上の開きが存在しています。
毎日新聞社と社会調査研究センターの共同調査の場合、意見聴取はノン・スポークン方式を採用しています。調査員(オペレーター)の介在しないオートコール(自動音声)調査にほかなりません。オートコールやショートメールでの回答はtype to typeですので、調査員にvoice to voiceで回答する方式に比べて、調査対象者のプレッシャーが軽減される方法です。調査員との直接のやりとりで即座の応答を求められることもなく、自分のぺースで対応でき、他人に回答を聞かれることもありません。対象者本位の自記式調査に相当します。
これに対して、朝日新聞社と日本経済新聞社は、調査員(オペレータ)の問い掛けに対する対象者の応答を調査員が書き取る他記式調査を採用しています。〔表2〕の結果をもとに、日本経済新聞社調査の『重ね聞き』効果を計算すると、念押し質問による比率の増加は、「支持」が8ポイント、「不支持」が3ポイントと、約3 : 1 で「支持」に大きく振れていることがわかります。朝日新聞社の単一質問結果と、日本経済新聞社の『二度聞き』前の第一段階での「不支持率」が、ともに13,14%の低率であることを考え合わせると、新政権の発足が話題となっている現下の社会状況において、否定的な回答を自粛する心性が作動したのかもしれません。調査員方式の意見聴取には、回答者が反社会的行動を過少に申告したり、推奨される行動を過大に申告したりする「社会的望ましさバイアス」(いわゆる「タテマエ回答」)が付随すると推測されます。
「菅義偉内閣に対するご意見の自由記述回答」についてはこちら
「毎日新聞提供」
2020年09月23日 09:00